【有料記事】なぜ伊藤巧だけが5尾も釣れたのか? 4時間に凝縮された精度と選択。ウイナーの当日の釣りに迫る!

塚田 智=文と写真 石村優・Basser=写真

Basser Allstar Classic初優勝を果たした伊藤巧選手。伊藤選手の当日の釣りにフォーカスした記事をBasser最新号(2024年1月号)からウェブ用に再編集してお届け! 雑誌1冊だとボリュームが多すぎる……という方におすすめのウェブ版特別編集の有料記事です。

特別なルアーがあったわけでも、自分だけの場所を知っていたわけでもなかった。日本時代にコツコツ集めた4000以上の魚探マーキングもすべて削除した。利根川での経験値が抜きんでていることは間違いないが、伊藤を支えていたのはあくまでもバスフィッシングのセオリーだった。そこに磨き上げられた正確なアプローチと、的確なルアーチョイスが加わり、オールスターを勝ったのである。(本文:4043文字)※全文を読むには記事の購入が必要です。

◆Basser誌面ではウェブ版未収録の「伊藤巧の来し方とそれを支える家族の物語」を掲載。妻・ちえさんの目を通した伊藤選手の姿もあわせて読みたい方は、月刊『Basser』2024年1月号(税込み1100円)をお求めください。

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伊藤巧選手のRESULT
DAY1 3870g(3尾) 1位
DAY2   0g(0尾) 14位
TOTAL 3870g(3尾) 優勝

 

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伊藤巧(いとう・たくみ)

1987年生まれ。千葉県出身。B.A.S.S.エリートプロ。TBCトーナメントにて2016年AOY獲得。H-1グランプリでは2011年、2015年の2度AOY獲得。2019年にアメリカ、B.A.S.S.マスターセントラルオープンにフル参戦し、1年目でトップカテゴリーであるエリートシリーズへの昇格を決める。2021年はエリートセントローレンスリバー戦で優勝。バサーオールスタークラシックには2017年初出場(5位)。2018年11位、2022年15位。今回、4回目の出場で初優勝を果たした。

 

 

増水のセオリーとデジャヴ

 2日間の全競技時間である16時間のうち、伊藤はわずか4時間で5尾のバスをキャッチし、優勝を決めた。その濃密な時合をどのように捉えたのか振り返りたい。

 初日の7時20分、クリスタルS3/8ozが増水して水中に沈んだ枝を乗り越えた瞬間、伊藤のオールスターが開幕した。1210g が、もんどりうって飛び出してきた。

 伊藤がファーストエリアの横利根の逆ワンドに到着したとき、一般のバスボートアングラーが先行しており、しかも1500g クラスをキャッチしたのを目撃。そしてドン突きの水門方向に向かってアシを流していくと、すぐに応えが返ってきたのだ。

伊藤「増水で、少し沖をフラフラしてる魚が絶対いると思った」

1尾目/1210g

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時間 │7時20分
ルアー│クリスタルS3/8oz
エリア│横利根川逆ワンド(利根川)
釣り方│バンク近くの沈みオダでハングオフ

 

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クリスタルS 3/8oz(ノリーズ)
ロッド│ロードランナー ヴォイス ハードベイトスペシャル HB680M(ノリーズ)
リール│カルカッタコンクエスト100(シマノ)
ライン│フロロハンタータクト14Lb(シーガー)
当初、巻き物はプロトのクランクベイト「マルノミフラット」をメインに据えていたが、水の増え具合、また濁り具合からクリスタルS3/8ozをチョイス

DAY1ライブ配信より、伊藤選手1尾目のヒットシーンから再生できます↓

 

 横利根川河口の逆ワンドは、本流の影響を受けづらく、比較的バスのストック量が多いエリア。プラで利根川本流に手ごたえを見いだせなかった伊藤は、この「安パイ」ともいえるエリアにすがった。しかし、先行者の釣果とスピナーベイトへのワイルドなバイトからあることを感じ取る。

伊藤「これ、ひょっとしてバスがエサを食べる日かもしれない」

 オリジナルのクリスタルSを選んだのは、ルアーをゆっくり引く必要があったからだ。

伊藤「プラクティスの状況から、バスが速いルアーを追いきれないのでは? と感じていて、軽くて抵抗のあるクリスタルS3/8ozを選びました。もっと濁っていたらシャローロール(ダブルコロラドタイプ)もアリだったと思います」

 1尾目をキャッチし横利根水門を奥に進んでいくと、壁際でボイルに遭遇。その瞬間、伊藤の脳裏に浮かんだのは川村光大郎さんの顔だった。

伊藤「プラで光大郎さんが釣ったシチュエーションとまったく同じだ。絶対スクーパーフロッグで釣れる」

 実は川村さんと1日プラクティスに出ていた伊藤。スクーパーフロッグのラバーチューンの効果を間近に見ており、今回のプランに組み込んでいたのだ。ボイルをダウンショットで撃つと、あっさり2尾目をキャッチ。

2尾目/660g

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時間 │7時54分
ルアー│スクーパーフロッグ/ラバーチューン
エリア│横利根川逆ワンド(利根川)
釣り方│ボイル撃ち

DAY1ライブ配信より、伊藤選手2尾目のヒットシーンから再生できます↓

 

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スクーパーフロッグのラバーチューンは、川村光大郎さん自ら施したものだった

 

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キャスト精度が非常に高く、ねらったところにルアーが吸い込まれていくようだった。スピニングで護岸を撃つようなときも、明確にねらう目印があるようで、サミングを欠かさず静かに着水させていた

伊藤「水位が一気に落ちてきた。ということは……」

 

立ち木に対する低弾道キャストのメリット

 水位が下がり、流れが発生してきたタイミングで、シャローでフィーディングしていたバスは沖に出るはず。タイダルリバーで経験から導き出したこの読みが、見事に的中した。

伊藤「この近くにある沖のフィーディングスポットは3カ所しかない。逆ワンドの入口付近にある立ち木です。ここからは、これをどう釣るかにかかっている」

 3カ所の立ち木(伊藤は“枝”と呼ぶ)を前に伊藤が手にしたのは、野尻湖プロガイドでJBTOP50アングラーの五十嵐誠さんがプロデュースした「ワッキーティーチャー」の1.8gネコリグだった。

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「縦に動かしても、ワームは横に動く」とアクションを絶賛したワッキーティーチャー。風のない状況で、軽いウエイトで扱えるストレートワームがハマった

 ワッキーティーチャーは、『陸王』で奥田学さんが使っているのを知ってから気になっていたワーム。福岡のショップでたまたま売っているのを見つけ、10パックほど購入。試してみたところ、アクションのよさに驚いたという。

伊藤「普段なら3.5g以上のサンカクティーサンのネコリグで撃つけど、プラのときからどうもヘビーウエイトに反応が悪い。今日は風がないから、軽いウエイトでも枝をていねいに撃っていけるはず」

 サンカクティーサン「重ネコ」の強い水押しでバスにアピールするのではなく、軽いウエイトでも操作感を失わないワッキーティーチャーという選択。そして、読み通り時合を捉えた。

伊藤「言ったとおりでしょ!」

 立ち木で990g 、920g と連発。利根川に到着して2時間弱でリミットメイク、そして入れ替えまでしてしまった。

3尾目/990g  4尾目/920g

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時間 │9時15分/ 9時21分
ルアー│ワッキーティーチャー/ネコリグ
エリア│横利根川逆ワンド(利根川)
釣り方│沖のウッドカバーでロングシェイク

DAY1ライブ配信より、伊藤選手3尾目のヒットシーンから再生できます↓

 

 ここで、立ち木に対する伊藤のあるアプローチに注目したい。5~7mというある程度のディスタンスを保ちながらも、徹底してピッチングでキャストしていたという点だ。

伊藤「オーバーヘッドキャストで弾道が高くなると、ラインが風でブレる可能性がある」

 しかし、縦ストラクチャーのボトム、中層をねらうにあたって、空中のラインのブレがどう関係するのだろうか……?

伊藤「実はこれがめちゃくちゃ重要で、枝を撃つのって、キーになるのは空中に出ているラインなんです。とくに、このスポットみたいに枝が複数本ある場合は、撃ちたい枝とは別の枝にラインが少しでも引っかかってしまうと、ルアーにシェイクが伝わらない。だからなるべくほかの枝にラインが触らないように着水させるんです。

 そうすることで、水中で複雑に絡んだ枝に対して、イメージどおりのアプローチができる。スッとフォールさせられるし、仮に中層の枝に引っ掛かったら、そこで吊るしてシェイクもできる。これでミチイトが枝に絡んでいたら、シェイクの力も半分しか伝わらない。それが2カ所もあったら30%しか伝わらないんです」

 これが1.8gというウエイトであればなおさらだ。シェイクが伝わらない以前に、操作感も得づらい。目に見えるストラクチャーをやみくもに撃つのではなく、ルアーに自分の意志がしっかりと伝わるような正確なアプローチが、連発を生んだのだ。

 

時合の「巻き戻し」

 横利根逆ワンドで時合を捉えた伊藤は、「まだ減水が起こっていない」上流に向かう。タイドに応じた立ち回りは伊藤の十八番である。これがハマれば手が付けられなくなる。

伊藤「水門操作による水位変化は、下流と上流と同時に起こるわけではない。必ず1時間~1時間半という誤差が生じるんです。上流の減水が始まる前に先回りしてしまえば、流れ初めの時合をもう1度捉えられる」

 果たして、この読みも見事的中。ジグのスイミングにチェイスがあったブッシュに、フォローで5gカメラバ+スイッチオントレーラーを吊るすと、1670g が頭を半分出してバイトしてきた。

5尾目/1670g

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時間 │11時32分
ルアー│カメラバ5g+スイッチオントレーラー
エリア│利根川上流(木下)右岸のブッシュ
釣り方│カバー撃ち。ジグストにチェイスしたバスに対するフォローとして投入

 

DAY1ライブ配信より、伊藤選手5尾目のヒットシーンから再生できます↓

 

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カメラバ5g+スイッチオントレーラー(ともにノリーズ)
ロッド│ロードランナー ヴォイス700JHS ジャングルスピン ヘビー(ノリーズ)
リール│ヴァンキッシュ2500SHG(シマノ)
ライン│R18 完全シーバス 1.5号(シーガー)
「1500g級が釣れるところだけやる」と宣言したのちに1670g をキャッチ。ブッシュに身体を突っ込みランディングするシーンに、中継を見守る観客は固唾を飲んだ

 

伊藤「亀山流鶴岡式パワーフィネス!」

 結果として2日目は風が強く太陽もあまり出ない時間が長く続き、カバーに浮く魚が少なかった。それを考えると、条件がそろった1日目のこのタイミングで、ねらう場所と選んだルアー・タックルのすべてがマッチしたこの1尾は、まさに会心だった。カメラバにスイッチオントレーラーをセットする理由について、こう説明してくれた。

伊藤「こういう小さいルアーって、硬いスピニングロッド(ジャングルスピン700Hを使用)でキャストしづらいんです。でもスイッチオントレーラーには、トンボの羽根みたいな、大きい手が生えてるんです。これがほどよい抵抗とブレーキになって、キャストスピードがゆっくりになる。ノーシンカーワームを投げているかのようにふわ~んと飛んでいくので、コントロールしやすいんです」

 終わってみればこれが逃げ切りを決めた1尾となった。

 

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パワーフィネスは、「太陽が出て、風のないタイミング」が出しどころだ。カバーの中に浮いてくるバスをねらう、亀山湖で身に着けた伊藤の得意技である

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ブッシュ下をレンジを刻みながら探っていく。亀山湖のロコである鶴岡克芳さんが煮詰めたメソッドが、大舞台で会心の1尾をフックアップさせた

 実は、伊藤は利根川に4000個以上マーキングしていた魚探のデータを、昨年のオールスター時に全削除したという。

伊藤「過去の経験から離れるために、です。今の自分が利根川を見つけたらどう戦うんだろうっていうのを、自分で確かめてみたかった。アメリカに行ってもう4年経つから、正直今の利根川をまったく知らないんですよ。でも、なにも知らないなかで釣るっていうのがまたプラスになっています。

 ひとつ言うなら2日目、逆ワンドに固執してしまったのは後悔してますね。あの状況で、バラした1尾を追いかける釣りにシフトできるかどうかが、伊藤巧の今後の課題だと思います」B

 

 

 

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なぜボクだけが釣れるのか?春夏秋冬 秘密のビッグバスパターン40 hyoushi_cover_fin_new

定価:本体1,800円+税
著者:伊藤 巧
出版年度:2020
A5判160ページ

主な構成は、春夏秋冬の実釣取材ドキュメントと、各季節の秘密のビッグバスパターン10×40の解説! さらに、ビッグフィッシュ論、タクミのホットベイツ、パワーフィネス序説、タクミのアメリカへの夢など、見逃せないコンテンツが脇をがっちりと固めます。 本書には文学的な面白さは一切ありません。全160ページにわたって伊藤さんが日本で米国で培ってきた知見とそれに基づくケース別攻略法がこれでもかと詰め込まれています。読破するには体力と集中力が必要かも知れません。 ですが、この内容を自分の知識に取り込めたとき、必ず釣り場で役に立ってくれるはずです。釣り場に行く前に全ページを記憶しておきたい。そんな1冊になりました。

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2024-05-13 01:38:37